【セミナー参加後記】インサイトスコープProjectセミナー「買わない世代の行動原理」
デザイナーの丸山です。
先日、グランフロント大阪 コングレコンベンションセンターにて、宣伝会議が主催するインサイトスコープProjectセミナーに参加してきました。
以前の「ユーザー参加型ソーシャルメディアキャンペーンセミナー」と同じく若年層をターゲットとしたセミナーで、多角的な取り組み事例が多く非常に参考になりました。セミナー参加後記として全体をまとめ紹介したいと思います。
インサイトスコープProjectセミナー「買わない世代の行動原理」
http://www.sendenkaigi.com/event/insightscope-14th/
若者の消費行動の鈍化と言われる中、いつの時代もブームを作っているのはその若者。行動傾向や流行をうまく掴めている企業は、好意的に受け入れられ、ファンを生み出すことに成功しています。このセミナーは、そんな若者の行動から原則を読み解き、戦略や事例の紹介を交えて有効なアプローチを考えるセミナーです。
【第1部】よなよなエールの熱狂マーケティング
長野のクラフトビールメーカー、株式会社ヤッホーブルーイングさんによる「よなよなエールの熱狂マーケティング」。ヤッホーブルーイングさんは、よなよなエールをはじめ「水曜日のネコ」や「僕ビール、君ビール」などPR戦略に強いクラフトビールメーカーさんです。
プロモーションやイベントに特徴(良くも悪くも“癖”とも言ってました)があり賛否両論こそ多いが、小さな会社ならではのトレードオフを積極的に採用しているそうです。
そんなヤッホーブルーイングさんの開発コンセプトは以下の通り。
ヤッホーブルーイングの開発コンセプト
- ターゲットは明確に狭く
- キャラクターを立てる
- 他社が真似を躊躇するくらい徹底した差別化
商品に社名や地域名は入れず、全国展開を視野に常時10種類以上の個別ブランド戦略を実施しているそうです。
豆知識として・・・商品に社名はないけどパッケージデザインには全て共通して“月”が入っているとのこと。
事例1. 水曜日のネコの場合
開発動機 | ビール市場において女性向け製品がない(確立されていない) |
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ターゲット | 30歳前後の知的で仕事のできる女性 |
飲用シーン | 平日夜のオフタイム |
ペルソナを明確にシーンに寄り添う商品づくりが共感を呼び成功を収めた事例。「商品開発において“面白い(目立つ)ことをやっている”と思われがちですが、実際は“スゴくペルソナ考えて模索しています。”」の発言が、さすがだな!と感じました。
大手メーカーとは違いマーケティングやリサーチリソースがないので人力で情報収集をしているそうです。本気度が伝わりますね。また小ネタですが、パッケージのネコが笑っていないのは、自身を投影した姿を表現しているからとのこと。
事例2. 僕ビール、君ビール
開発理由 | LAWSONから若年層をターゲットとしたビールの開発依頼 |
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ターゲット | 若者:20〜30前後の男性 |
飲用シーン | 日常 |
若年層にある「缶ビールを家で呑む=ダサい」というマイナスイメージを払拭し、当初3ヶ月の完売予定を僅か1ヶ月で完売した脅威の成功を収めた事例。
PRでは「カエル捕獲大作戦」と称し「近くのローソンに“かえるビールはあるか?!”」と、商品を購入(捕獲)したお客様が専用のハッシュタグでツイートすると地図の該当エリアが塗りつぶされる、というインタラクティブなプロモーションを行われました。現場の声として、スタッフは東京都内を走り回り、USTREAMにてカエル捕獲を生中継し常に呼びかけるなど、マンパワーが実ったというのも面白い話でした。
ヤッホーブルーイングのマーケティングとは
ヤッホーブルーイングさんでは時流に併せて「今後も売れ続けるには?」「なぜ弊社が選ばれているのか?」を知るべく、ネット通販や店頭などでインタビューを集め、コンシューマーインサイトを探る取り組みを行っているようです。「特性」「消費動機」をまとめ「効果」を洗い出しベネフィットを精査。
ファンを増やして一人ひとりのロイリティが高まるプロモーションをしよう。ということで、飲み会イベントの拡大版に位置する「超宴」を実施しているとのこと。
コト消費と自分ゴト
体験したい、行動したい、非日常空間などビールを呑みたいだけではない効果を期待している「コト消費」。
“メーカーとお客”の関係ではなく“ビール好き”という同じ目線の「自分ゴト」。
自分たちの業種や活動領域に囚われず、顧客との密着プレイでロイヤリティを高め、ユーザーが求めるブランド価値を作り上げるヤッホーブルーイングさん。今後のプロモーションにも注目していきたいと思います。
【第2部】新しい消費のカタチ「シミュレーション消費」を乗り越える
第2部は株式会社クロス・マーケティングさんによるモノを買わない若者に対する向き合い方の講義。
本内容は「20歳から26歳男子のホンネが見えるコミュニティ“U26”」に今回のテーマを投げかけ、そこで出た実際の声を基に構成されていました。。
以下はU26へ「今欲しいものはありますか?」の質問を投げかけた出た実際の声になります。
欲しいものはあるけど、無理をしてまで欲しいとは思わない。
必要なものだけ買えれば、充分。無難なものじゃない重要性がわからないので、無難なものを選んでいる。
※ インタビュー動画より
このような意見にオトナ達はよく「冷めている」といった表現をしますが、「リアルな目線」を持っているとも取れるな、と感じました。今の時代“買う・遊ぶ”ことに関して、事前に調べることが大半。いわば「答え合わせ」のような体験感覚で、SNSでのリアルなシーンに触れることにより、バーチャルなシュミレーション体験をすることで自然に物欲はなくなる構図なのかもしれません。
事例1. タイムズカープラス
「買う」ことよりも「シェア」が重視されるのはなぜなのか?
- 「車に乗る」といった体験を売り、若者の車離れへの意識変容を図った。
- 終電を乗り過ごした方が車内で時間を過ごしたり、日中の外出時に車内で仕事をするなど、新しい活用が生まれた。
- 体験を売ることで結果タイムズを退会してしまうが、その理由に「車を購入したから」が非常に多い。
- 利用方法を制限しないことで、本当の使い心地が体感できる。
カーシェアリング事業は様々な可能性を拡張させたようです。「サービスの利用方法を制限せず、一定の“空白”を設けることで、事業がより加速する」という思考はユーザーファーストな考え方で素敵ですね。
事例2. ヴィレッジヴァンガード
- 時間潰しに快適な空間を提供。
- 各店舗が好きな商品を仕入れ、そのセレクトを行う店長やスタッフ自身をペルソナ設定している。
- 商品の新陳代謝は早く、入り口は1週間、店内は1ヶ月で入れ替え。
- ヴィレヴァンであると同じ商品でも違うように見えるブランドイメージ。
- 店員と商品と客をPOPでつなぐ「POP=対面接客」の空間づくり。
U26のインタビュー動画からすると「雑貨」とは無駄なモノのように考えがちですが、「情報より体感、コスパより楽しさ」と日々の中でどう体感していただくかを提案することに効果があるようです。
【第3部】マーケターによるパネルディスカッション
株式会社ヴィレッジヴァンガードさん、富士フイルム株式会社さん、株式会社エフティ資生堂さん、3社のマーケターによるパネルディスカッション。
質問形式毎にテーマに対する要点を箇条書きにしてみました。
Q1. 高校生と大学生の嗜好の違い。
- 情報検索能力が高い
- ルールを決めず囲い込まないマーケティング施策が◎
- アナログリバイバル、と言うけど実際はアナログを体験したことのない世代
富士フィルムさんでは「商品を売り込もうにも“スペックを出せ”“質感を出せ”と上層部からの制限がかかる」と大企業ならではの悩みの声もあり、多くの共感を生んでいました。
Q2. 若年層をターゲットとした場合の課題
- 10代、20代の広告アレルギーをどう払拭していくかがPOINT。
- 砕いた言い方をすると「オトナに対して本音はなかなか言わない。」
「オトナに対して本音はなかなか言わない。」は「オトナには本音を話す(話してしまう)はずだ」という大人エゴの裏返しにも聞こえ、興味深い意見でした。
Q3. 若年層のインサイトを捉えて成功した!という成功事例
富士フイルムさんでは(インスタントカメラ チェキの場合)ソーシャルリスティングを頻繁に行い、徹底的なリサーチを実施されたようです。
「どう売るのか? プリントとデジタルの狭間をどうつなぐのか?」の課題をSNSからリサーチを行い、「Photo in Photo」「Photo to Painting」の流行を後押ししたそうです。
またプロモーションムービー(力士と行司がスカイダイビングをしながら商品を使う動画)にも「力士が空中で演じる土俵入りの型」「ただの力士・行司ではなく、実はスゴい人物」などの“ネタ”も仕込まれおり、リリース後のインフルエンサーでバズも狙ったとの事。
後のエフティ資生堂さんも同じことを言っていましたが「あえてクリエイティブに余白を設ける。」といった表現が妙に心地よかったです。
Q4. 若年層の消費に関する特徴
- 消費は承認欲求にのひとつ
- SNSの自分がもうひとつの自分
- 色々な情報を拡張して取得する傾向にあり
- マーケターのフィールドワークも重要
若いから刺さらないではなく、未知数の範囲も広く柔軟に対応できる視野を持つことが重要なのでしょう。
Q5. どのようにインサイトを把握する取り組みを行っているのか
- SNSをチェック
- グループインタビュー(定量調査)
- テストマーケティング
- 「知っていること」と「理解していること」のギャップを埋めるため必ず体験する
「何を言っているのが分からない」に対する危機意識は強く、頻繁にFGI(フォーカスグループインタビュー)の場を設けているようです。
まとめ:セミナーを通して
デジタルネイティブと呼ばれる世代が流行を作り始めた今日。訴えかけたい層が若者の場合、利用するツールやステークホルダーが多く、ややこしく考えがちですが、行動の原点は「良いモノづくり」。
今回のセミナーはその良いモノを作った後の売れる仕組みを盛り込むための講義でした。日頃聞けないメーカーさんのならでは視点や、商品開発やリサーチによる苦労・コツを聞くことができ、有意義な時間になりました。
この記事が、これから新たに商品を開発しよう、今にない新しい事業を作り出そう、という方の参考になれば嬉しく思います。
この記事を描いたひと
株式会社ユニオンネットのスタッフ。
https://www.unionnet.jp/company/#staff