デザイン経営とは?実行するための4ステップやポイントなども解説
近年注目を集めている経営手法が、デザイン経営です。デザイン思考でニーズを捉える経営手法ですが、デザイン経営とは何か理解していないという方も多いでしょう。
そこで当記事では、デザイン経営とは何かを解説し、実行するための4ステップなどを解説します。
デザイン経営とは?
デザイン経営とは産業が成熟してモノが売れない現代で、注目を集めている経営方法です。欧米企業では主流となっている経営方法で、日本では2017年に政府がまとめた「デザイン経営宣言」によって注目を浴びるようになりました。
ここではデザイン経営の概要と行うための条件、従来の経営との違いについて詳しく解説します。
デザイン力を活用した経営手法
デザイン経営とはイノベーションの創出や企業ブランド構築に、デザイン力を活用する経営手法です。デザインといわれると、ビジュアルや色合いなどを連想する方も多いでしょう。
しかし、デザインは「課題を解決するために思考を巡らして設計する」ことが本来の役割です。課題とはユーザーが困っていることであり、デザイン経営はユーザーが困り事を見つけ出して解決することをいいます。
技術やサービスに差異がなくなり、ユーザーが慎重に買い物をするようになった現代では、前述のとおりモノが売れにくい時代です。モノが売れにくい時代だからこそ、ユーザーが本当に困っていることを解決できる商品やサービスを提供しなければなりません。
デザイン経営の条件
経済産業省のデザイン経営宣言によると、デザイン経営の条件は以下2つです。
- 経営陣にデザインの責任者がいること
- 事業戦略構築の最上流に至るまでデザインが関わること
「デザインの責任者」とは商品やサービスをユーザー視点で考えて、企業ブランドの構築が可能かどうか判断できるスキルを持つ人材をいいます。またデザイン経営へ転換するにあたって具体的な業務変更を考えられる能力も欠かせません。
デザイン経営を推進する場合は、これらの能力を持った責任者が必要です。「事業戦略構築の最上流に至るまでデザインが関わること」ではデザインを中心に据えて、デザイン経営のサイクルを構築することをいいます。
デザイン経営のサイクルを構築するためには、デザイン部門やデザイン力を持った人材を育成しなければなりません。そのためにはデザインを重要資源と位置付けて、投資していくことが大切です。
従来の経営との違い
従来の経営とデザイン経営は根本的な考え方が違います。従来の経営の場合は「よいものを販売すれば売れる」という考えから商品開発がなされます。
そのため、従来の経営では社内で考えられた企画をもとに商品やサービスが開発されて販売されるのが一般的です。しかし、デザイン経営の場合「ユーザーに選ばなければ売れない」という考えが基準となります。
そのため、ユーザーの理解や課題を洗い出したうえで施策と実験を繰り返し、完成度を高めながらでないと販売されません。徹底的にユーザー視点に立つ、これが両者の大きな違いといってもよいでしょう。
デザイン経営が重要な理由
デザイン経営が重要な理由は、ユーザーが求めているニーズがモノの豊かさから、心の豊かさに変わったことです。モノが売れにくくなった時代となった背景には、このニーズの変化も影響しています。
ひと昔前までユーザーはモノの豊かさを求めており、よいものを大量生産して販売すれば売れていました。これは「従来の経営との違い」で解説したとおりです。
しかし、現代ではユーザーは心の豊かさを求めており、自分に新しい価値を与えてくれるものや企業コンセプトに共感できるものを選ぶようになりました。そのため、従来の経営手法のままではユーザー側の変化を捉えきることが難しくなっているのです。
ユーザー側の変化を捉えきるためには、徹底したユーザー視点に立つことが重要であり、それを可能にしているのがデザイン経営です。事実、Apple社などのユーザー変化をしっかりと捉えている企業は売上が伸びており、デザイン経営が今後の企業活動を左右するといっても過言ではありません。
デザイン経営の2つのポイント
デザイン経営のポイントは大きく分けて「デザイン思考を意識する」「高度デザイン人材を育成する」の2つです。デザイン経営を推進するには、デザイナーのような考えを持つことと高度なデザイン人材を育成することが欠かせません。
ここではデザイン経営を成功させるためのポイントについて解説します。それぞれのポイントを押さえて、デザイン経営を推進していきましょう。
1. デザイン思考を意識する
デザイナーのような感覚でデザインを意識するのがデザイン経営のポイントです。デザイン思考とはデザイナーが作品を生み出す際の思考を差します。
デザイン思考は身体で体感して気付くものであり、新しい機会に気付くための問題解決方法といってもよいでしょう。身体で体感しながらユーザーニーズを正しく把握し、問題解決に取り組んでいくことが、デザイン経営には欠かせません。
2. 高度デザイン人材を育成する
デザイン経営を推進するには、高度デザイン人材の育成が欠かせません。高度デザイン人材の育成プロジェクト研究会によれば、高度デザイン人材とはBTD型のデザイン人材と定義しています。
BTDとは「Business(ビジネス)」「Technology(テクノロジー)」「デザイン(Design」)の頭文字を取ったもので、3領域のスキルを持った人材のことです。従来ならば個別のスキルとして部門ごとに配置されていたものを統合し、各領域のスキルを持った人材を育成することが、デザイン経営推進には必要とされています。
高度デザイン人材は「5種類」に分かれる
高度デザイン人材は「デザインストラテジスト 」「ビジョンデザイナー」「デザインマネージャー」「サービスデザイナー」「ビジネスデザイナー」の5種類に分かれます。
高度デザイン人材を育成するためには、どのような人材を育てるべきか理解しておかなければなりません。ここでは、高度デザイン人材の種類について解説します。
1. デザインストラテジスト
デザインストラテジストとは多感な想像力を働かせて、課題解決を目指す人材です。課題を整理したり試作品を迅速に製造したりするなど、イメージを形にする重要な役割を担っています。
デザインストラテジストは、まとまりがない状態を整理することが得意です。そのため、会議が煮詰まってアイデアが出ない時に切り口を変えた分析や変えるべき部分、変えてはいけない部分の切り分けも素早く行えるでしょう。
事実、デザインストラテジストの活躍によって社内説得に成功した事例や、事業の予算を確保してデザイン経営の実現が高まった事例もあるほどです。デザイン経営で事業の成長や収益を獲得するには、欠かせない人材といえるでしょう。
2. ビジョンデザイナー
ビジョンデザイナーに求められるのは、既成概念に捉われず本質を捉えることや、時代の流れを広い視野で捉えて未来を構築する能力などです。特にデザイン経営においては、ユーザーの問題を解決する新しい方法を生み出す必要があります。
そのためには、既成概念に捉われない自由な発想が不可欠です。ビジョンデザイナーを育成しておくことで、従来なかった新しいアイデアを生み出すことができ、市場における競争力を高められるでしょう。
3. デザインマネージャー
デザインマネージャーとは、デザインを主体とした組織を構築するうえで欠かせない人材です。従来の経営体制では、デザイン人材をどれだけ育成・確保しても十分な効果は得られないケースがあります。
デザイン人材を最大限活用して効果を得るには、組織体制や制度を整備する必要があります。デザイン人材が主体的に活躍できるような組織体制や制度を整備するには、デザインマネージャーが欠かせません。
4. サービスデザイナー
サービスデザイナーとは、商品やサービスなどをデザインする仕事です。問題を解決できるアイデアを提案し、ユーザーが率先して利用したくなるような製品やサービスの提供や事業・サービスの拡大を目指します。
また調査や分析結果など課題解決に必要な情報をペルソナなどに可視化したうえで、サービスデザインの案を出すこともサービスデザイナーの仕事です。サービスデザイナーに求められるものは、UXデザインの知識や多角的に物事を捉える力などが挙げられます。
5. ビジネスデザイナー
ビジネスデザイナーとは、デザイン経営によって生み出された商品やサービスをビジネスとして成り立たせるために仕組みを作り上げる人材のことです。例えば、デザイン経営によってユーザーの問題を解決できる新しいアイデアが生まれたとしましょう。
しかし、そのアイデアを商品やサービスとして価値を見出さなければビジネスとして成り立たず、収益につながりません。生まれたアイデアをビジネスとして成り立たせるにはどうしたらよいのか考えたり、アドバイスしたりする役割を担っているのがビジネスデザイナーです。
ビジネスデザイナーを育成しておけば、新規事業の計画段階から課題点と改善点を見つけることができ、より精度の高い事業計画を構築できるでしょう。
デザイン経営を実行する4ステップ
デザイン経営を実行するためには、「ユーザーニーズの調査と問題点の洗い出し」「アイデアを出していく」「プロタイピングの実施」「テストの実施」の4ステップを踏む必要があります。
ユーザーニーズを捉えた商品を生み出すには、ユーザーニーズの調査と問題点の洗い出しが欠かせません。ここでしっかりとニーズを捉えることができれば、その後のステップも進めやすくなるでしょう。
1. ユーザーニーズの調査と問題点の洗い出し
デザイン経営を実行するには、ユーザーニーズを調査して問題点の洗い出す必要があります。専門家に相談したり、実際に該当環境に身を置いたりしながら、ニーズの調査と問題に対する理解を深めましょう。
ニーズと問題に対する理解を深めたら、次に問題点を洗い出します。ここで重要なのは、企業ニーズを問題点として定義しないことです。あくまでもユーザーの立場で問題点を洗い出さなければなりません。
2. アイデアを出していく
ニーズと問題に対する理解、問題点の洗い出しが終わったら、問題を解決するためのアイデアを出します。アイデアを出す際は、問題を解決するための新しい解決策を見出すことが大切であり、既成概念にとらわれない自由な発想を意識しなければなりません。
アイデアを出す際に最適な方法がブレインストーミングです。ブレインストーミングとは大勢でアイデアを出し合う会議手法です。アイデアを出し合うことで今までになかったアイデアや発想を生み出せるでしょう。
3. プロトタイピングの実施
アイデアが出揃ったら、そのアイデアをもとに安価な試作品を何点か作成して、プロトタイピングを実施しましょう。プロトタイピングとはアイデアを試して、状況に応じた手法で改善していくいわば製品の性能実験です。
試作品を試してもらい失敗を繰り返すことで、製品の改善や別のアイデアを試すことができ、ユーザーに寄り添った質の高い製品に近づけられます。デザイン経営においてこのプロトタイミングは非常に重要です。
4. テストの実施
プロトタイピングによって出来上がった最終段階の試作品を評価者によってテストします。このテスト結果が良好であれば、具体的な販売へと動き出しますが、多くの場合はさらなる問題が発覚する場合が多いです。
テストの実施によって、発覚した問題を解決するために、再度アイデア出しやテストを実施しながら製品をさらに改良していきます。
まとめ
産業が成熟しモノが売れなくなった現代では、ユーザー体験がビジネスの成否を決めるといっても過言ではありません。あらゆるユーザー体験の質を高めるには、従来の経営手法では対応しにくくなってきています。
そこで推進したいのが、デザイン思考を意識してユーザーニーズを捉えるデザイン経営です。デザイン経営を行うことができればブランド構築はもちろんのこと、イノベーションも生み出せるでしょう。
ただし、デザイン経営へのシフトチェンジは簡単なものではありません。デザイン経営を正常に機能させるにはデザイン思考を意識し、高度デザイン人材を育成してデザイン人材が活躍できる環境や制度を整備する必要があります。
デザイン経営の内容や重要性を理解して、質の高い企業経営を行っていきましょう。
「すごい!」や「素敵!」を作ろう。ってことね。
この記事を描いたひと
企業のWeb担当者と制作会社の想いをつなげるメディア「untenna」の編集部。